工藤美代子/加藤康男
『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった』
はどんなトリックの上に成り立つ本か
1923年9月1日に発生した関東大震災は、10万人を超える死者を出す大惨事だった。その上、この悲惨な天災に人災を加えたのが、朝鮮人虐殺事件だ。震災後の混乱の中で、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が放火している」といった流言がひろがり、それを真に受けた人々、あるいは軍などによって、多くの朝鮮人が虐殺された。正確な数は不明だが、歴史学の世界では、数千人規模と見るのが一般的だ。フジサンケイ系の育鵬社も含め、たいていの中学の歴史教科書にも記述がある(くわしくはこちらを参照→20分でわかる「虐殺否定論」のウソ ◉「保守派の歴史学者も虐殺について記述」)。
ところが、この史実を真っ向から否定する人たちがいる。ノンフィクション作家の工藤美代子氏と、その夫の加藤康男氏である。2009年に工藤名義で『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』(産経新聞出版)が刊行され、2014年にはそれに加筆した『関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった』(WAC)が、今度は加藤康男名義で刊行された。後者は前者の「新版」と銘打っている。実際、内容も若干の加筆を除けばほぼ同一だ。
関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった!(2014) |
関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実(2009) |
さて、『なかった』の主張を一言でまとめると
「朝鮮人虐殺なんてなかった。なぜなら、それは地震に乗じて暴動を起こした朝鮮人に対する日本人の反撃であって一方的な虐殺ではなかったから」
となる。
なるほど。確かに当時の自警団は、「朝鮮人が暴動を起こした。井戸に毒を入れた」という噂を信じて朝鮮人を殺害した。だが、彼らが信じた「朝鮮人暴動」は結局、事実ではなくて単なる流言だったのではなかったか。
ところが工藤夫妻は、これを真っ向から否定する。あれは流言ではなかった、朝鮮人暴動は本当にあったのだ、と言うのだ。では『なかった』で、工藤夫妻はこれまでの常識を覆して、暴動の実在を論証できているのだろうか。結論を言ってしまえば、全くできていない。その代わりに夫妻は、手品のような論法で読者を丸め込んでいる。そう、『なかった』は、右手に注目を集めておいて左手の袖から隠していたコインを取り出すといった初歩的な手品を思わせる本なのである。
ではこの本は、どんな手品によって成立しているのか。少し長くなるが、そのトリックの「タネ明かし」をお見せしよう。
当ブログは、サイト「『朝鮮人虐殺はなかった』はなぜデタラメか」の一部です。朝鮮人虐殺、あるいは虐殺否定論批判をもっとくわしく知りたい方は、そちらもご覧ください
ではこの本は、どんな手品によって成立しているのか。少し長くなるが、そのトリックの「タネ明かし」をお見せしよう。
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誤報・虚報が横行した震災直後の新聞記事を「証拠」に仕立てる